放置車両撤去サービスの解説

1 放置車両の定義

(1)放置車両か廃棄車両か(当サイトにおける定義)

放置車両とは、自動車の所有者が他人の敷地等に長期間放置している自動車をいいます。

廃棄車両とは、自動車の所有者がその自動車の所有権を放棄し、他人の敷地等に不法に投棄されているものをいいます。すなわち無主物です。

放置車両であるか廃棄車両であるかは、その自動車の所有者が所有権を放棄しているかどうかという意思によります。所有者が所有権を放棄しているかどうかは、その自動車の登録状況、ナンバープレートの状況、自動車の外観、放置期間等から総合的に判断されますが、所有者の意思という主観的事実を客観的に判断するのは非常に困難です。客観的に見ると廃棄車両でも、所有者が所有権を放棄していないと言い張れば、それが通ってしまう可能性はあります。

※道路交通法上は、違法駐車と認められる場合における車両であって、その運転者がこれを離れて直ちに運転することができない状態にあるものと定義されていますが、当サイトでは私有地上での放置車両を問題としますので、この定義は直接的には妥当しません。

(2)無主物占有による廃棄車両の所有権取得とその後の廃棄処分

廃棄車両は所有者が所有権を放棄した自動車(すなわちゴミ)ですので、法律上は無主物になります。

無主物であれば、所有の意思をもって占有することによって誰でもその自動車の所有権を取得することができます。

そうすると、放置されている自動車が廃棄車両である場合、その自動車を無主物占有することによって所有権を取得すれば、その自動車を自由に処分することができることになります。レッカー業者に依頼をして廃棄処分をしてしまうことも所有者の自由です。
ただし、前述の通り、所有者が所有権を放棄しているかどうかという主観的事実を判断するのは非常に困難ですので、廃棄車両だと思っていたら、実は所有者が現れたということもあり得なくはありません。

2 放置車両の放置場所が公道か私有地かによる撤去方法の違い

(1)公道における放置車両の撤去

公道に自動車が放置されている場合、各自治体の条例等によって強制的に撤去が行われます。
もちろん撤去にあたっては条例等に基づき、適正手続がとられることはいうまでもありません。

したがって、公道に放置されている自動車にお困りの場合は警察等の行政に連絡をすれば解決できることになります。

(2)私有地における放置車両の撤去

私有地に自動車が放置されている場合ですが、法令等に定めがない以上、行政上の手続で撤去することはできません。
通常の民事手続によって放置車両を撤去することになります。

3 放置車両撤去サービス業者の違法性

(1)自力救済禁止の原則

自力救済とは公の手続を踏まずに、私人が自己の権利を実力行使にて実現することを言います。

自力救済は禁止されており、これに違反すると民事上は不法行為責任(民法709条)を負うことがありますし、器物損壊罪(3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料〔刑法261条〕)等の刑事上の刑罰を科される可能性もあります。

(2)放置車両撤去サービス業者の資格と違法性阻却事由の有無

①引取業者登録

自動車引取業者とは使用済自動車の再資源化等に関する法律42条1項によって登録が義務付けられている業者です。
同法はリサイクルを促進するための法律であり、放置自動車に対応するものではありません。
自動車引取業者の登録をしているからといって、放置自動車を所有者に無断で処分できるものではありません。

あくまでも引取業者への自動車の引渡しは自動車の所有者によってなされなければなりません。

同法8条も「自動車の所有者は、当該自動車が使用済自動車となったときは、引取業者に当該使用済自動車を引き渡さなければならない。 」と定めており、所有者によって自動車が引取業者に引き渡されることを前提としております。

②古物商許可

古物商許可は古物営業法3条1項によって古物商に義務付けられています。
同法は盗品の売買の防止と発見を目的とするものであり、放置自動車に対応するものではありません。

古物商許可はあくまでも古物の売買等ができるというだけのものであり、古物商許可をとっているからといって放置自動車を所有者に無断で処分していいことにはなりません。

(3)なぜ放置車両撤去サービス業者が許されているか

放置車両撤去サービス業者は、建前としては、放置車両の所有者からその引取等の依頼を受けるということにしています。

すなわち、依頼者が放置車両の所有者であるという前提でその自動車を引き取っているわけですから、何ら違法ではないという建前です。

放置車両撤去サービス業者の言い分が正当であるかどうかは疑問がないわけではありませんが(放置車両撤去サービス業者は依頼者が放置車両の真の所有者でないことを知っているため。)、後にトラブルが発生した場合に、放置車両の撤去を依頼した者が勝手に放置車両を自己の所有物だと偽って業者に依頼をしたのであり、業者には責任がないという言い逃れをされる可能性があります。
その際の民事責任・刑事責任は依頼者が負うことになります。

要するに放置車両撤去サービス業者は極めてグレーなところで業務を行っているということです。

4 放置車両の所有者の確認方法

放置車両の所有者を確認するためには、自動車登録ファイルを取得する必要があります。

自動車登録ファイルの取得にはナンバープレートの番号のほか、現場の見取り図と放置車両の写真が必要になります。

ただし、放置車両が軽自動車の場合、自動車登録がありませんので、弁護士法23条照会を行い、所有者を確認する必要があります。
弁護士法23条照会は弁護士に事件処理を依頼しなければ行うことができません。

5 放置車両の所有者に対する訴訟提起

訴訟としては、放置車両の所有者を被告として、土地の不法占拠を理由とする明渡請求と駐車場使用料等の支払請求を行います。

駐車場使用料(駐車場使用料相当の損害金)の支払請求を行う理由ですが、放置車両に価値がある場合があり、売却代金から金銭債権を回収できる場合がありますので、やっておいた方が良いと思います。

6 放置車両の所有者に対する強制執行

(1)放置車両に価値がある場合

放置車両に価値がある場合は、駐車場使用料等の支払を認めた判決に基づいて、放置車両を差し押さえ、強制競売を行います。

裁判所に競売の申立てをし、予納金を収めると、競売開始決定がなされ、売却手続が行われます。

その後、売却代金から配当を受けることにより、駐車場使用料等の回収ができます。

車両については、買受人が撤去をすることになります。

事前に中古車業者等に話をして、競売において買受人になってもらう方がスムーズに手続きが進むと思われます。

(2)放置車両に価値がない場合

放置車両に価値がない場合で競売の手続費用もまかなえないときは、競売が認められませんので、放置車両の競売ではなく、不法占拠を理由とした土地の明け渡しの強制執行を行います。この手続には、債権者又はその代理人が立ち会わなければなりません。

土地の明け渡しの強制執行は、執行官によって行われますが、執行官が放置車両を無価値であると判断した場合、同車両を廃棄処分することができます。

執行官が放置車両に価値があると判断した場合は、(1)と同様の強制競売手続に移ります。